テアゲロthetwins-11-
なんだ、ここは。
帰るの嫌だって言った俺の気持ち、わかってくれます?
西の空の下の方を赤く染めた空が、刻一刻とその色を消していく。
その濃い赤はおどろおどろしく、それを覆うように広がるのは、
深い闇を思わせる漆黒の空。
今日は曇っているのか、月も星も出ていない。
鬱蒼とした富士の樹海をバックに、点と灯りの灯る家。
時折、カラスの鳴き声も聞こえる。
これじゃまるで富士の山麓呪い村。
い、言わないで〜!
有岡が、キャーと言いながら耳に手を当てる。
お前、ここで育ったんだろ?
そうだけど。
なのに、そんなにビビッてどうする?
ビビるでしょ?誰だって?
有岡が大野の腕を掴んで、当たりを見回す。
まぁな。
両脇に篝火の炊かれた村に続く道。
どこの家も、オレンジ色の灯りを灯し、白色電灯の色はない。
時代が、逆行したような光景に、思わず身震いする。
なんか、寒くね?
大野が言うと、有岡がうなずく。
そうなんですよ。うちの村、周りの村よりいつも何度か低くて。
それもあって、呪われた村なんて言われてて。
呪われた村?
ひどく閉鎖的な村なんです。
大野は篝火の間を歩きだす。
有岡は大野の腕を掴んだまま、隠れるように着いて行く。
もうすぐ祭りがあるんですけど。
祭り?ああ、だからこれ。
大野は両脇の篝火を見ながらうなずく。
祭りの夜に、神に生贄を捧げてるんじゃないかって、もっぱらの評判で。
はぁ?いけにえ?
そ、そうです。
有岡は大野の影から、当たりを見回す。
見たのか?
見たわけじゃないけどそういう噂があるくらい暗い村なんです。
突然、バサバサっと大きな音を立てて何かが飛んでいく。
う、うわぁ〜っ!
有岡が、大野に抱き着く。
それくらいでビビんな。フクロウかミミズクかそんなとこだろ?
昔から、怖がりなんですよ〜。そんな俺が、ここでやっていけると思います?
有岡が大野を見上げると、大野はふぅと溜め息をつく。
しかも、うち、神社だし。
だったら、神様が守ってくれんじぇねぇの?
大野は有岡を引きずるように村に向かって歩いて行く。
や、やっぱり帰りましょう?
何言ってんだよ。帰りのバス、もうねぇんだろ?
そうですけど。
この暗い中、歩いて帰るのと、実家に行くの、どっちが怖い?
有岡は後ろを振り返り、暗闇の中、ポツポツと電灯の灯る道と、
目の前の篝火の炊かれた道を見比べる。
どっちも怖い〜。
大野はまた溜め息をついて、篝火の間を歩き出す。
ま、待ってくださいよ〜。
有岡は、大野の隣に並ぶと、絶対離すまいと、大野の腕に抱き着いた。
篝火の間を抜け、村の中央と思しき場所から、少し入った所に有岡の実家はあった。
実家の裏が神社になっているらしく、
高い樹に囲まれた有岡の家は、他の家よりさらに暗い。
玄関の前で大野は有岡をじっと見据える。
お前カミングアウトする気、あるんだよな?
えまぁ。
まぁって!悪いが、俺は付き添いみたいなもんだからな。
そんな〜。
実家に戻って家、継ぐか?
それは。
有岡は小刻みに首を振る。
だったら、ちゃんと自分で言うんだな。
言ってわかってもらえれば苦労しませんよ。
だったら、家を継げ。俺は帰る。
大野は来た道を戻ろうとする。
それを、有岡の腕が引き戻す。
わかりましたよ〜。ちゃんと言います!
だから、手伝ってください〜!
大野は眉をしかめ、困ったように有岡を見つめる。
好きなやつ、いんだろ?
はい。
他のやつと結婚なんかしたくねぇんだろ?
はい。
だったら、気合入れて行け!
大野は有岡の尻を叩くと、玄関を開けるよう、顎で促す。
有岡はおずおずと玄関の引き戸に手を掛け、ゆっくりと開けて行った。